昨日はカトマンドゥを離れてヒマラヤを見に行ってきた。
なかなか旅の詳細を、こういうところに記すことが無かった(主にめんどくさい)けど、今回はちょっと張り切って細かく書いてみたいと思う。



カトマンから35キロほど東にあるナガルコットという村へ。



当初はツーリスト・バスで直行しようかと考えてて、タメル地区のトラベル・エージェントに行ったところ、「マオイスト(ネパールの共産主義過激派)の活動が活発化してるから、今はツーリスト・バス出てないよ」と受付の兄ちゃんは言う。


ほうほう、そりゃ困った。
でも、ローカル・バスを乗り継ぎで利用すればナガルコットへ行けるという。



おお、ローカルバス。



旅の移動手段として、個人旅行者は幾多の選択ができる。

具体的には金を出せば出すほど、快適で迅速に移動できるわけです。
反対に、金をケチればケチるほど、現地の人々の足となる公共交通機関に依存せざるを得なくなり、これは結構ハードで時間もかかる。
まぁ、新幹線と鈍行列車みたいなもんでしょうか。



でも、おれはローカル・バスが大好きなのだ。
なぜってそりゃもう、おもしろいから。


庶民の足なだけに、乗ってくるのはその辺のおっさんとか、学生とか、親子連れとか。
観光地ではなかなか出会えない、本当の意味でのその国の人々に出会えるのがローカル・バスなのだ。



そんなわけで早速バス・スタンド目指して歩く。
とは言え、漠然と「ここにあるよ」とトラベル・エージェントの兄ちゃんに地図を指差されただけなので、詳細な場所がほとんどわからん。
とりあえずその周辺と思しきとこに着いたら、ここは必殺の「その辺のおっさんに道を聞く大作戦」だ。


なんでおっさんなの?と思われるかもしれないけど、忙しい日本社会とは違い、多くの国では道端でフラフラしてたり、ボーっと立ってたりと、いかにもヒマそうなおっさんがたくさんいるもんなのだ。
おれの経験則では、ヒマ人のほうが異邦人の戯言にも真面目に耳を貸してくれる。なんせ、彼はヒマなのだから。
そういうわけで、おれは外国で道を聞くときはほとんどおっさんに聞いているのである。


ここネパールでも、ヒマそうなおっさんが大量に道に溢れている。
おれは彼らに片っ端から「おっさん、ナガルコット行きのバスはどこ?」と尋ねまくる。
「あっちだ」「こっちだ」と指差された方向に向かって歩いていくと、バスが大量に停まってる広場に到着。
たくさんあるバスから無事にナガルコット行きのバスを発見し、乗り込む。


そしてバスは発車するわけだが、さあさあ、ここからがおもしろい。
車窓から人々の営みを眺めるもよし、バスに乗り込んでくる人たちの行動を眺めるもよし。
そのすべてが日本とは違ったかたちで行われている。
「いやー、旅してるなー」と思わせてくれる、貴重な瞬間である。


バスはバクタプルという街で停まり、ここからは違うバスへ乗り換え。
ここバクタプルは、古い町並みが有名なところで、軽く観光でもしたかったのだが、なんと街の中心地に入るのに観光客は10$も払わなければいけないのである。
10$といったら大体1150円くらいである。
これは日本では昼飯にチャーシュー麺とチャーハンセットを食えば済んでしまう金額だけど、こちらでは1日、下手すりゃ2日は過ごせる金額だ。
そんな大金を払ってまで、中に入るかボケェ、と唾を吐き捨て、おれはまたもやその辺のおっさんに道を聞いて、ナガルコット行きのバス停へ向けてとぼとぼと歩き出した。


すると、うさんくさい若い兄ちゃんが「コニチハ!FRIEND!」と叫んでいる。
外国で、日本人と見て日本語で話し掛けてくる奴の8割は良からぬ輩である。
でもまあ、急いでいるわけでもないので近づいて話してみることに。
「まあお茶でも飲め」と茶屋の店先に腰を下ろし、彼はこう言った。


「バクタプルの街に入るにはホントは10$かかるけど、おれが必殺の抜け道を使って中に案内してやるぞ!ガイドも付けて400ルピーでどうだ!!」


400ルピーは大体580円くらい。
ふむ、まあガイド付きならまぁいい感じか・・・。
でも、もう少し下げれるな。



「兄ちゃんそのハナシ乗ったぜ、でも、200ルピーでどうだ!」



交渉の末、250ルピーで決着が着く。
うむ、勝った。



街の中に入り、いろいろと説明してもらう。



そこまでは良かったのだが、ガイドが終わった後に「ナガルコットへ行くならおれも一緒に行っていいホテルを紹介してやるぜ」とか「おれは彼女以外に女が3人いるぜ」とか「マリファナ吸うか」とか、会話が怪しい方向へ流れ出す。
うむ、さすがうさんくさい野郎だ。




適当にあしらって、250ルピー払ってバイバイした後、ナガルコット行きのバス乗り場へ。


ちょうどバスがあったけど、見るからに満席。ギュウギュウ詰め。
「こりゃ次のバスだな」と諦めてタバコに火を点けようとしたそのとき、車掌の兄貴がこう言った。


「よし、お前はROOF TOPに乗れ!」


ROOF TOPて!屋根の上ですか!これだからローカル・バス、好きなんだよ!


梯子を登ってバスの屋根に座る。ああ爽快。
でも、少しケツが痛い。


何故か屋根にでかい金属鍋を載せる少年を眺めていると、バスは発車!



ナガルコットは山奥の村。
そこへいくにはうねうね迂回する山道を通ることになる。
ただでさえ、山の尾根と段々畑が連なる壮大な景色を、おれは屋根の上から、360度のパノラマで楽しむことができた。
ああ、ローカル・バス最高。


と、思ったのも束の間。
山道の途中にある学校の前でバスが停車する。
校門の前には下校する子供たちが大量にはしゃぎ合っている。
嫌な予感がする。


当然、その予感は数分後に的中した。
制服の子供たちが次々と、満席のバス車内ではなく屋根の上になだれ込んで来たのだ。
次から次へと、そりゃもう漫画かコントの如く。

最終的には屋根の上と梯子にぶらさがる子供を含めて20人は車外に人を乗せた状態で、バスは走り出す。
上りの山道、バスは時速10キロも出てなかったんじゃなかろうか。


子供たちに弾き飛ばされそうになりながら、なんとかナガルコットに着いた。
それと同時に群がるホテルの客引き。
めんどくさいので、良さそうなホテルの客引きに着いて行き、ちょっと高かったがいい感じの部屋だったのでそこに宿泊決定。


時刻はもう夕方。
おお、夕焼けに染まるヒマラヤが、ついに見える!!
カメラを携えて部屋を飛び出したおれを向かえたもの、それは




「・・・曇ってて見えませんがな」



という厳然たる現実だった。
しかも強い山風と標高の高さ故の寒さにやられ、部屋に帰らざるを得ない。


肩を落として部屋に着き、「シャワー浴びて飯食って寝よ。明日は早起きして朝焼けに染まるヒマラヤを見るんだ」と自分を元気付ける。
バスルームに行き、シャワーの蛇口をひねる。
思えば、シャワー・トイレ着きの部屋に泊まることなんて、今回の旅行で初めてだなあ。
などと考えながら、お湯が出るのを待つが、一向にお湯は出ない。
10分くらい、全裸で手をシャワーにかざすという屈辱的なスタイルで待ったけど、出るのは水ばかり。


水水水、ONLY COLD WATER!!!!!!


あのクソ客引き・・・HOT SHOWER出るヨ!言ってたがな・・・。
この寒いのに、冷や水なんか浴びれるかい、ボケ!


おれの怒りは頂点に達し、すぐさま服を着てレセプションへダッシュ
そこに居たスタッフを捕まえて、おれの稚拙な英語力を余すところ無く使って、水しか出ねぇ、さっきホットシャワー出るって言ってた、という2点をまくし立てた。
そのスタッフは1度引っ込み、再度現れておれに「SORRY, YOUR ROOM IMPOSSIBLE」と伝えた。


プチッと音が聞こえた。
それはおれの理性が切れる音。


これまた、おれの稚拙な英語力を余すところ無く・・・と怒りを表現していると、レストランに居た白人の女の子がおれに話しかけてきた。
フランスから来たというその子は、流暢な英語でこう言った。


「良かったら、私の部屋のシャワー使う?」


おお、天使だ。フランスから現れた天使だ。


「い、いいんですか、使わせていただいて」
「気にしないで。さあ、着いて来て。部屋まで案内するから」
「おお、なんとお礼を申して良いことやら。ありがたやありがたや」


お言葉に甘えてホット・シャワーを使わせて頂き、丁重にお礼を言った。
カナダのケベックから来た彼氏と旅をしているという。
彼氏持ちか・・・残念。という気持ちがあったことは否めない。
美男美女のカップルであった。感謝感謝。


その後夕飯を食って、早めにベッドに入ったおれ。
そう、明日の朝こそは、朝焼けのヒマラヤを拝み、写真に収めるのである。


ワクワクしながら眠りに着いた。



そして次の日、午前5時半に起きて部屋を飛び出したおれを迎えたもの。それは





「・・・く、曇って見えませんがな」





部屋に戻って、ふて寝してやった。



そして肩を落としながら、ローカル・バスに乗ってカトマンドゥへ帰って来た次第。



ヒマラヤは見えなかったけど、面白い小旅行であった。